東京高等裁判所 平成11年(行ケ)108号 判決 1999年12月14日
原告
株式会社プラニング・ジャパン
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
土門宏
被告
コダマ・インコーポレーテッド
代表者
【B】
訴訟代理人弁理士
【C】
同
【D】
同
【E】
同
【F】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成9年審判第16495号事件について平成11年2月26日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、第25類の「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、靴下」を指定商品とし、「Island Snow」のローマ字と「アイランドスノー」の片仮名文字を上下二段に書してなる商標登録第3300202号商標(平成7年3月8日に登録出願、平成9年5月2日に設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成9年9月2日に本件商標の商標登録の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成9年審判第16495号事件として審理したうえ、平成11年2月26日、「登録第3300202号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本を同年3月17日に原告に送達した。
2 審決の理由
別添審決書の理由の写しのとおり、本件商標をその指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その商品が被告又はハワイのアラモアナ・ショッピングセンターで営業している「Island Snow Hawaii」という名称の店(以下、審決に準じて「Island店」という。)と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると認定判断した。
第3 原告の審決取消事由の要点
審決の理由1ないし3は認める。同5は争う(同4は欠番。)。
以下の事実を考慮すれば、本件商標をその指定商品に使用したとしても、商品の出所の混同のおそれはないというべきであるから、そのおそれがあるとした審決の認定判断は誤りである。上記誤りは、結論に影響することが明らかであるから、審決は、違法であって、取り消されるべきである。
1 原・被告の業態について
原告は、東京所在の、自らは小売りをしない小規模な衣類の製造業者である。被告は、米国ハワイ州<以下略>所在の、サーフボードを主な商品として、自ら小売りも行う小規模な製造販売業者であって、我が国には、その商標である「Island Snow(アイランドスノー)」(以下、審決に準じて「引用商標」という。)の使用契約を締結している者もいない。このように、被告は、営業規模が小さく、我が国で営業活動をしていないから、本件商標の使用によって、原告と被告との間に何らかの関係があると印象づけられることはない。
2 原・被告の流通の形態について
被告の製造販売の中心となる商品はサーフボードであるから、スポーツ用品販売店、サーフボード販売店経由で一般消費者に販売される。原告の商品は、本件商標を付したシャツであり、衣類問屋に卸売りされ、一般消費者に販売される場所も、衣料品店、デパート、スーパーマーケット等である。したがって、原告商品が被告商品と競合して売られることはない。
3 メーカーの数について
サーフボードのメーカーは、我が国にもハワイ州にも多数存在する。このように多数あるサーフボードの製造業者の中で、アイランドスノーの名を使用する被告は著名な者ではない。
4 本件商標と引用商標の称呼について
スノー(snow)の付く商標は多数あり、スノーだけでは識別力がない。アイランド(island)の付く商標も多い。したがつて、引用商標の称呼「アイランドスノー」だけで、直ちに被告の業務を連想させ、印象づけられ、記憶されるというためには、圧倒的な知名度、周知性が引用商標に認められる必要がある。しかし、引用商標には、このような知名度、周知性はない。
5 引用商標の著名性について
審決の理由5の<1>ないし<6>の記事等は、雑誌の発行部数、広告の掲載規模、期間、広告された店舗での売り上げ等の証拠がなければ、引用商標の著名性を立証する証拠とはならない。
6 被告の商標について
被告が有する商標としては、別表「被告の使用商標」記載の5つの商標がある(以下、同別表記載の各商標を、同別表の「標章」欄に記載されている名称で呼ぶ。なお、引用商標は、「Island Snow(アイランドスノー)」という文字商標であるので、引用商標Aと全く同一というわけではない。)。本件商標は、引用商標ないし引用商標Aと類似するが、これらは全く商標としては使用されていない。被告使用商標BないしEは、本件商標と類似しない。
第4 被告の反論の要点
1 被告の店舗及び商品は、サーフボードのみならず、サーフィンのウエア、カジュアルウエア、アクセサリー、子供服からアイスクリームに至るまで多岐にわたっている。審決は、業務主体である店舗との関係及び本件商標の指定商品である被服等以外の多種の商品との関係での混同をも考慮して、出所の混同のおそれがあるとしたものである。
2 今日では、多種多様の情報媒体の発展に伴い、海外通信販売からインターネットによる商品販売に至るまで、外国の商品を個人消費者が容易に購入できるようになっており、商品市場が一般消費者にとっても全世界的なものとなって、国の違いによる障壁がなくなりつつある。このような状況の下では、引用商標のような外国商標の著名性の認定を、国内の取引事情のみによって行うことは許されない。商品の出所の混同の有無について判断する際には、主として外国で商標として使用され、我が国において、価値のある商品、権威のある商品を表示する商標として報道、引用された結果、我が国において周知となった商標も、我が国において商標として使用された結果周知となった商標と同様に扱うべきであり、両者を区別する理由はない。
3 本件の場合、出所の混同のおそれを検討するには、引用商標が創造商標であるか否か、ハウスマークであるか否か、引用商標の周知度、という判断基準によるべきである。
引用商標は、常夏の島(ISLAND)であるハワイで、被告の主力商品であるスノー(SNOW)ボードを販売するということから採択された創造商標である。
また、引用商標は、被告の販売会社であるISLAND SNOW HAWAII INC.の社名の一部であり、被告の店舗名でもある。
被告提出の各証拠に係る雑誌等への広告や掲載は、その趣旨や経緯がいかなるものであろうとも、多種の媒体により引用商標に係る店舗及び商品の紹介が我が国の需要者の目に触れる形でなされたということが重要である。また、ハワイは、我が国からの海外旅行者が最も多い旅行先であり、特に、アラモアナ・ショッピングセンターのような大規模なショッピングセンターに入っている人気の店は、我が国の旅行雑誌、ファッション雑誌等に国内の店と同じような身近さで紹介されているものである。被告は、アラモアナ・ショッピングセンターでは10年間、ロイヤル・ハワイアン・ショッピング・センターでは16年間、販売を続けている。
以上の事実から、引用商標は、本件商標出願前から我が国の需要者の間でも広く認識されていた。
4 引用商標は、雑誌掲載広告等に表示されている「Island Snow」、「アイランドスノー」と同一である。引用商標と被告使用商標Bは、自他商品の識別力の観点から見て、社会通念上同一性を有する商標である。
第5 当裁判所の判断
1 Island店と「Island Snow」及び「アイランドスノー」について
(1) 乙第2号証の2(審決の甲第4号証の2)、同号証の5(審決の甲第4号証の5)、同号証の6(審決の甲第4号証の6)、同号証の7(審決の甲第4号証の6の2、3)、同号証の9(審決の甲第4号証の8)によれば、審決の理由5(1)の<1>ないし<5>のとおりの各記載が各刊行物にあることが認められる。
(2) さらに、証拠によれば次の事実が認められる。
<1> 「月刊サーフィンライフ3月号別冊 フリッパー 1993№1」(株式会社マリン企画1993年ころ発行)には、被告使用商標Bが大きく、同Cが小さく表示され、「ISLAND SNOW WEARは今日まで着実に、ハワイアンロコの間で親しまれ人気を不動のものとしてまいりました。オアフ島に10店以上の直営店を展開し、アラモアナ・センター店は特に有名です。」との広告が掲載されていること(乙第2号証の4)
<2> 「ランナーズ12月号別冊 ハワイマガジン」(株式会社ランナーズ1991年12月20日発行)には、「アイランド・スノー・・・人気上昇中のショップ」として、被告使用商標C入りのトレーナーが掲載されていること(乙第4号証の1)
<3> ハワイで日本人観光客向けに無料で配布される月刊広告誌「ショッピングハワイ」(Donald C.Shishido発行)の1994年2月号、11月号、12月号に、「有名ブランド、ビーチとカジュアル・ウェア専門店アイランドスノー。アラモアナ・センター2階」、「アイランド・スノー・ハワイは、ローカルの人達から人気のあるビーチ、アクション・スポーツ、カジュアル・ファッション・ウェアのお店です。有名ブランド・・・アイランド・スノー・・・等沢山揃っています。」、「アイランド・スノーには、・・・人気のスポーツ・ウエアやカジュアル・ウエア、アクセサリーなど・・・が勢揃い。取り扱いブランド・・・ISLAND SNOW」等として、Island店とともに、被告使用商標Cを使用したタンクトップや被告使用商標Bが掲載されていること(乙第4号証の2ないし4、弁論の全趣旨)
<4> 「アロハエクスプレス 27」(ソニーマガジンズ株式会社1994年発行)には、「ISLAND SNOW HAWAII・・・アラモアナ・センター2階・・・アイランド・スノーのスノー・ウエア」、「ここアイランド・スノーでは、欧米からの観光客や日本人のために、アメリカン・ブランドのボードをお手ごろ価格で取り揃えている。」とし、読者プレゼントとして被告使用商標Bのステッカー、被告使用商標Cのキーホルダーが掲載されていること(乙第4号証の5)
<5> ハワイで日本人観光客向けに無料で配布される雑誌「アロハストリート ’94Vol.14№2」(発行者不明、1994年発行)には、「スノーボードのお店・・・アイランド・スノーというお店」として、Island店が掲載されていること(乙第4号証の6)
<6> 「AB・ROAD/エイビーロード 1994年7月号」(株式会社リクルート1994年発行)には、Island店が「人気のハワイアン・カジュアル」、「ハワイならではの店を発掘してみよう。おすすめはアイランドスノー。」等の記載とともに掲載されていること(乙第4号証の7)
(3) 前記(1)、(2)の事実及び弁論の全趣旨によれば、Island店は、被告ないし被告と密接な関係を有する者が経営する店舗であること、同店は、被告使用商標B、Cを付した「ISLAND SNOW」ないし「ISLAND SNOW HAWAII」というオリジナルブランド及び他の有名ブランドのカジュアルウエア、スポーツウエア及びアクセサリ等を取り扱う店舗であって、遅くとも1991年から、米国ハワイ州<以下略>のアラモアナ・ショッピングセンターで営業しており、「ISLAND SNOW」ないし「アイランドスノー」と略称されていたこと、同店の営業内容、被告使用商標B、C及び「ISLAND SNOW」ないし「ISLAND SNOW HAWAII」ブランドは、本件商標の登録出願前に、ハワイで人気のある店舗、その商標及びオリジナルブランドとして、ハワイの日本人旅行者に宣伝されるとともに、我が国でも雑誌等により紹介されていたことが認められる。
(4) 被告使用商標B及びCに記載されている文字は、「ISLAND SNOW HAWAII」であることが明らかであって、「HAWAII」の文字は小さく書かれ、しかもIsland店がハワイにあることからすれば、上記「HAWAII」は地名を表すものとして認識されるから、被告使用商標B及びCからは、「アイランドスノーハワイ」のみならず、「アイランドスノー」の称呼も生じるものと認められる。
(5) 以上の事実に、Island店が紹介された上記「POPEYE」がファッションに関心のある者の間で、「AB・ROAD/エイビーロード」及び「ぴあMAPハワイ」が旅行に関心のある者の間で、いずれも我が国において有名な雑誌であること、我が国においては米国のファッションに対する関心が高いこと及びハワイは日本人の旅行者が多い地域であること(いずれも当裁判所に顕著な事実である。ちなみに、乙第2号証の9によれば、上記「ぴあMAPハワイ」の発行部数は30万部であったことが認められる。)を総合すれば、「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の文字ないし言葉は、本件商標の登録出願当時、Island店の業務又は同店と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であることを表すものとして、我が国のカジュアルウエア、スポーツウエア及びアクセサリーの取引者・需要者の間で広く知られていたものと認められる。
2 混同のおそれについて
本件商標は、「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の文字からなるものである。そして、本件商標の指定商品は、Island店の営業として販売されているカジュアルウエア、スポーツウエアを含むうえ、アクセサリともファッションという点で密接な関連性があるものである。そうすると、本件商標の登録出願時においては、本件商標をその指定商品に使用するときには、被告ないし被告と密接な関係を有する者が経営するIsland店又は同店と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったものというべきである。
そして、本件全証拠によっても、本件商標の登録出願時以降、上記認定を覆すべき事情が発生したことは認められないから、上記混同を生ずるおそれは、本件商標の登録査定時においても継続していたものと推認すべきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は、被告がサーフボードの製造販売業者であることを前提として、原・被告の業態及び流通経路が異なると主張する。しかし、Island店は、カジュアルウエア、スホーツウエア及びアクセサリの販売をも営業内容としていることは前認定のとおりであるから、原告の主張は、その前提を誤るものである。
(2) 原告は、「スノー」の付く商標及び「アイランド」の付く商標が多いことを理由として、「アイランドスノー」という称呼は、識別力が弱いと主張する。しかし、「スノー」の付く商標及び「アイランド」の付く商標が多いとしても、「SNOW(スノー)」と「ISLAND(アイランド)」の両者を組み合わせたことによって生まれる「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」を、ありふれた英語の熟語ないし外来語ということはできず、これに類似した称呼の商標が多いと認めるに足りる証拠もないから、「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の識別力が弱いということはできない。
(3) 原告は、Island店が掲載された雑誌の発行部数、広告の掲載規模、期間、広告された店舗での売り上げ等の証拠がなければ、引用商標の著名性を立証する証拠とはならないとし、さらに、サーフボードのメーカーが多数あることをもって、引用商標が著名ではないと主張する。しかし、「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の文字ないし言葉が、本件商標の登録出願当時、Island店の業務又は同店と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であることを表すものとして、我が国のカジュアルウエア、スポーツウエア及びアクセサリーの取引者・需要者の間で周知であったことは前認定のとおりであって、Island店が掲載された個々の雑誌の正確な発行部数やIsland店の売り上げ金額についての証拠がない(なお、広告の掲載規模及び期間は、各雑誌の記事の内容及び発行年から明らかである。)ことや、サーフボードのメーカーが多数あることは、上記認定を左右するものではない。
(4) 原告は、引用商標ないし引用商標Aは商標として使用されていないと主張する。
しかし、「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の文字ないし言葉が、本件商標の登録出願当時、Island店の業務又は同店と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であることを表すものとして、我が国のカジュアルウエア、スポーツウエア及びアクセサリーの取引者・需要者の間で周知であったことことは前認定のとおりである。そして、上記「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」の文字ないし言葉の周知性は、Island店の略称、被告使用商標B、Cから生ずる称呼、Island店のオリジナルブランドの呼び名が、いずれも「ISLAND SNOW」及び「アイランドスノー」であること等によって生じたものであるから、引用商標ないし引用商標Aが、商標法にいう「商標」として「使用」されていたか否かは、上記認定を左右するものではない。
また、原告は、被告使用商標BないしEは、本件商標と類似しないと主張する。しかし、本件商標をその指定商品に使用するときには、被告ないし被告と密接な関係を有する者が経営するIsland店又は同店と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることは前認定のとおりであって、それは、被告使用商標BないしEが本件商標に類似するか否かには関わらないから、そのことは、上記認定を左右するものではない。
4 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
<省略>